【名文と出会う】
秋の雨。
なんとも美しいではありませんか。
川端康成パイセンの、こんな一文をどうぞ。
『しぐれ』
——-昨日も秋にはときどきある、朝も昼もずうっと夕暮のような空模様のまま夜になるとしぐれが来ましたが、まだ東京近くでは木の葉が散るしぐれやまがふころではないと知りながら、私は落葉の音もまじっているように聞こえてなりません。
しぐれは私を古い日本のかなしみに引きいれるものですから、逆にそれをまぎらわさうと、しぐれの詩人と言われる宗祇の連歌など拾ひ読みしておりますうちにも、やはりときどき落葉の音が聞こえます。
葉の落ちるには早いし、また考えてみますと私の書斎の屋根に葉の落ちる木はないのであります。
してみると落葉の音は幻の音でありましょうか。
私は薄気味悪くなりまして、じっと耳をすましてみますと、落葉の音は聞こえません。
ところが、ぼんやり読んでおりますと、また落葉の音が聞こえます。
私は寒気がしました。
この幻の落葉の音は、私の遠い過去からでも聞こえて来るように思ったからでありました——-
Djembe&vocal
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